Vol.59　No.32　2023.5.23発行

本日の会長挨拶では、自分の仕事に絡んだことを話します。私の職業は、ご承知のように会計士ですが、税理士、会計士は「職業会計人」なんて呼ばれています。 呼び名はとも角、我々が「飯の種」にしている「会計」というものの質が近年大きく変って来ています。

従来、会計というとほとんどが「過去のデータ」を扱う（集計・分析する）分野でした。

関わった企業の経営者がこんな表現をされたことがあります。

俺は済んでしまった過去のことなんかには興味がない。食い物を食べた後のウンコ（食事中に済みません。）には興味はなく、これからどんな美味いものを食うかに興味があるんだと。

お前たち会計人は「し尿処理班」と同じだと。（これも差別的な表現で済みません。）この表現にちょっとムッとしたので、検便の検査により健康かどうかも分かりますよと申し上げました。

この経営者の表現が当たっているかは別にして、会計が過去の事柄を中心にデータを集め、纏め、分析して来たことは事実ですし、そのための一種の手法です。この機能はこれまで通りですし、その価値はなくなりません。

しかし、現在のように環境の変化が激しく、過去の知識、経験が役立たない状況下では過去の数値等をいくら集計、分析しても役立たない場合が多く起きています。

従来から行われている「引当金」というものも将来起きる可能性が強い費用、損失について今の段階から見積もって計上して準備しておこうという考え方です。

この考え方をどんどん進めて、将来起こりうることを推測して決算書に表して下さいとの要請が近年非常に強くなっています。

但し、会計は元来保守的な見方をしますので将来の費用、損失、債務は先行して見積もりますが、基本的には収益の方は見積もりません。

これが顕著に表れるのが「減損」という処理です。この処理は、中小企業での会計処理では行われていませんが、上場企業等での会計処理では強制処理になっています。

皆様が所有されている上場株式の決算書が送られてくると思いますが、損益計算書に馴染みのない内容の「ｘｘ損失」との表示があった場合は今から話しますようなことが発生しているとご理解下さい。

 

１．飲食企業、服飾企業店舗の賃貸借契約

賃貸借契約に基づく店舗展開をされ、契約書に契約終了時の原状回復条項が記載されている場合、その原状回復費用を見積もって債務（資産除去債務と言います。）を計上します。

多店舗展開されている場合は、かなりの金額になります。

２．所有事業固定資産の収益性

建物等の固定資産から将来得られる収益が、当固定資産の帳簿価格を下回る場合は、その差額を損失（減損）処理します。収益性の厳しい資産は、減額処理されます。

３．M&Aにおける営業権の評価

他の企業を買収した場合、営業権（簡単に言えば、買収対象企業の純資産以上の金額で買収した際に発生する差額）が計上されます。

営業権は、対象企業の収益力を帳簿計上額ではなく、将来の予想利益獲得額で計算されます。将来有望な企業（シナジー効果も含め将来性があるから買収する）が対象ならば、且つ大型案件の際には営業権が一千億円単位の巨額な金額になります。

しかし、買収後の状況が買収時とは異なり思惑通りに進まない（収益が獲得できない）ことが明確になった場合は、当営業権を減額（損失）処理します。結果、巨額な損失が計上されます。

何れにしても現在の会計は、こんなことを表わしていこうとする未来志向型に変わってきています。

 

自分の業務に関わることですので話しだしたら切りがありませんが、もう一つだけ話をします。

"毎期決算書を作られていると思いますが、収益力を示す損益計算書は詳しく見られて分析されると思います。 "

"しかし、もう一つの決算書である貸借対照表はあまり興味を持たれないのではないでしょうか。 "

"少し違う観点からも貸借対照表に拠って自社の現在価値を測って頂きたいと思います。 "

"「実態バランス」という貸借対照表でです。それはすべての資産、負債を現在の「実価」で評価し直したバランスシートです。 "

"例えば、 "

"長期滞留在庫の評価は落とす、回収が怪しい売掛金は貸倒処理、先に話しました固定資産の内、収益を獲得できないものを減損処理をする、有価証券で時価が下がっているものがあれば評価を落とす等々です。 "

"企業買収、事業再生の場合は、この手法を使って企業、事業を再評価します。 "

"勿論、収益が得られている、得られる可能性のある企業、事業については、この実価プラス営業権がその価値になります。 "

"しかし、この様な手法に拠って自社の価値を再認識してみることも事業戦略を立てる、見なす際には有効かも知れません。 "

"一度試してみて下さい。